イタリアこぼれ話(53)「アパートでの歌の練習」

日本でも、特に集合住宅の場合は、ピアノ等の楽器の練習には制約がある所が多いと思います。正確に言えば、楽器の音が制約なく出せる部屋を見つけるのは、簡単ではないのが現実です。

傾向としては、学生用のようなワンルームで良ければ、音楽大学の近くで探せば見つかります。ただ、家族で住めるような所だと、それなりに高級な物件か、特別な防音対策が施された物件でないと、ほとんど存在しないでしょう。

中にはピアノは可でも、トランペット等の金管楽器や声楽は不可、という所もあります。

また音出しが可の所でも、当然、音が出せるのは常識的な時間、例えば、朝の9時から21時までのように規制されています。中には、その時間が、条令等で定められている所もあったと記憶しています。

さて、私がイタリアでの生活を始めたのは、声楽の勉強をするためでしたから、住む部屋を見つけるに当たっては、歌が歌える所、と言うのが絶対的な条件でした。

ご存知のように、声楽の歌声というものは、数千人分の座席のある歌劇場やコンサートホールの隅々まで、マイクを使わない生の声を届ける必要があるわけですので、一般的にかなり大きいわけです。

そのため、練習を始めれば、その声は集合住宅の建物全体に響いてしまいかねません。

ちなみに練習とは、上手く出来ない箇所を、何度も何度も反復したり、様々なパターンを試行することの繰り返しですから、音楽好きな方にとっても、耳障りな騒音でしかないでしょう。

ただ、うるさくて申し訳ないと思いつつも、遠慮していては練習にならず、勉強も仕事も出来ませんから、毎日、思い切って声を出すしかないわけです。ずいぶんと念が飛んで来そうですが・・。

さて、話を戻してイタリアの事情ですが、日本ほど音出しが不可という所は多くなかったと思います。もしかしたら、歌ってはいけないという物件は、ほとんどなかったかもしれません。

ただし、時間の制限は日本よりずっと厳しかったです。

私が歌って良いと言われたのは、午前10時から正午までと、16時から18時まででした。

特に12時から16時までの声出しが禁止なのは、さすがシエスタ(昼寝、昼休憩)の習慣のある国、イタリアですね。

もっとも現在のイタリア、特に北部の都市部では、シエスタの習慣はほぼ消滅していて、ショップや会社等も、午前から夕方まで、続けて営業している所が多いです。

伝統的なイタリア人の生活は、夫が午前中に仕事に行っている間に、奥さんが市場へ買い物に行って昼食を用意する。昼過ぎに夫が帰宅し、昼食を摂った後、一休みする。夕方から再び仕事に行く。
というパターンであったそうです。

しかし近年では、都市部における通勤時間が長くなってしまったために、昼食を摂りに帰宅する事が、不可能になってしまったようなのです。

ですから、私が居住していたミラノでも、実際にシエスタの習慣がある方は、ほとんどおられなかったはずですが、元々のシエスタの時間帯には、静かにするという習慣のみが残っていたようです。

ちなみに、声楽というものは全身が楽器で、声と体力の消耗が激しく、1日に全力で歌えるのは、連続で1時間、休憩しながらでも2時間程度です。

それを超えた負荷をかけると、回復には数日から、時には1週間かかります。

大きな公演で歌った翌日などは、起き上がるのも大変で、一日中寝ていなければならない状況になります。

そのため、午前と午後2時間ずつあれば、声楽の勉強には十分過ぎます。けれども、ピアノやヴァイオリン奏者の方の場合は、毎日5~6時間以上の練習が必要な場合が多いので、大変だと思います。

どうやら指や腕と比べて、声帯は遥かにデリケートで、耐久性の低い器官のようです。

byなおいー

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イタリアこぼれ話(53)「アパートでの歌の練習」」への4件のフィードバック

  1. 近所事情より、声楽の体力の消耗、回復に驚きました。水波霊魂学的に、間気の消耗が著しいような印象を受けました。しかし、なおいーさんなら、高級な幽気を観客の方々に届けられると思います。

  2. マイク使わないって知らなかったです( ̄□ ̄;)!!
    生の声だけで凄いですね~( ̄□ ̄;)!!

  3. 日本だと騒音が元で大きいトラブルになるニュースを最近、よく聞きます。
    イタリアの方が何となく、音に対して肝要なイメージですね。

  4. 実際に声楽をされているからこそのご経験談ですね~。
    私の家の近くにピアノ演奏者の方がいらっしゃって、演奏会前はいつも同じ曲が長時間流れてきます。本当に熱心だなぁと感心しているのですが、食傷気味にもなっている、寛容にはなりきれない日本人の私です(;^_^A 

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